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売上の先食いがM&Aで会社の値段を壊す理由|税理士法人袖野会計

期末に「まだ引き渡していない仕事」を売上に計上すると、その年の利益は良く見えます。しかし翌年には反動で赤字になり、次の期末にまた同じことをしなければ数字を保てなくなります。会社を売る場面では、この処理は買い手の調査で全部元に戻され、価格・税務・銀行の三方向から売り手自身に跳ね返ってきます。売る予定がなくても、売上は「引渡し」で計上する。これが本稿で一番お伝えしたいことです。

本稿は、当事務所が関与した複数の財務デューデリジェンス(買収前の財務調査)の経験をもとに、特定の会社が分からないよう業種・数字・経緯を変えて書いています。

何が起きるのか

受注から引渡しまで数か月かかる業種(建設、製造、システム開発など)では、期末時点で完成していない仕事が必ずあります。ある会社では、期末に「翌年に引き渡す予定の工事」の売上をまとめて計上していました。目的は、取引先や金融機関に赤字の決算書を見せたくない、というものでした。

このとき原価はどうなるでしょうか。工事は終わっていないので、かかった費用は「未成工事支出金」という仕掛品の科目に残ったままです。売上だけが先に立ち、原価が後から来る。結果として、その年の粗利率は不自然に高くなり、翌年は原価だけが計上されて粗利率が急落します。決算書の粗利率が年々上がっていた会社が、修正後は3期連続で営業赤字だった、ということが実際に起こります。

先食いをした年翌年
売上翌年に引き渡す予定の工事の売上を先に計上その工事の売上は計上済みのため立たない
原価「未成工事支出金」に残ったまま原価だけが計上される
粗利率不自然に高くなる急落する

一度始めると止められないのも特徴です。翌年の反動を隠すには、次の期末にさらに多くの売上を先食いする必要があるからです。数年続くと、決算書と会社の実態の距離はどんどん広がります。

買い手の調査では、どう見えるか

財務デューデリジェンスでは、仕訳データを全件見ます。すると「期末日付」「決算整理用の伝票番号」「入金は翌年」「原価は未振替」という同じ型の取引が浮かび上がります。工事台帳や引渡書と突き合わせれば、実際の引渡日はすぐに分かります。

修正後の数字で見ると、その会社の「本業の稼ぐ力」(調整後EBITDA)はマイナスでした。純資産も実態ではマイナスです。こうなると株式の価値はゼロ以下と評価され、買い手が支払う株式代金は名目的な金額にしかなりません。売り手が思い描いていた「会社の値段」は、決算書の上にしか存在しなかったことになります。

三方向から跳ね返る

一つ目

価格

上で述べたとおり、修正後の数字で評価され、株式代金は名目的な金額にしかなりません。

二つ目

税務

払い過ぎた税金を取り戻せる余地はあっても、「仮装経理」とされると還付が制限されます。

三つ目

金融機関と契約

決算書の真実性は、融資の条件や買い手との契約に組み込まれています。

税務:取り戻せる余地と「仮装経理」

売上を前倒しした年は税金を多く払っていることになるので、理屈の上では「更正の請求」で取り戻せる余地があります。ただし、決算の内容を意図的に調整していたと税務署に判断されると「仮装経理」の扱いになり、還付は一度に受けられず数年に分けて法人税額から控除する形に制限されます。請求できる期限もあります。是正するかどうかの判断は、金融機関への説明や契約書の内容と一体で決めなければならず、売り手にとって重い宿題になります。

金融機関と契約:売った後も追いかけてくる

金融機関に提出した決算書の真実性は、融資の条件や経営者保証の解除条件に組み込まれていることが多く、訂正には慎重な段取りが要ります。買い手との契約では、決算書の真実性は「表明保証」の対象になり、引渡し基準の正しい適用が価格調整の前提に書き込まれます。つまり、先食いは売った後も追いかけてきます。

経営者の方へ

売る予定があるかどうかにかかわらず、次の三つをお勧めします。

その1

売上は引渡しで計上する

工事台帳と決算を一致させること。数字の良し悪しより、数字が「本当であること」のほうが、金融機関にも買い手にも高く評価されます。

その2

金融機関には資金計画で説明する

決算書を良く見せるのではなく、資金計画で説明すること。赤字の理由と回復の道筋を説明できる会社は、赤字を隠す会社より信用されます。

その3

「決算の調整」を頼まない

顧問税理士に「決算の調整」を頼まないこと。そして私たち税理士の側は、頼まれても断る責任があります。決算を触る手は、いずれ会社の値段を壊す手になります。

会社の数字の実態を知りたい、売却や承継を考え始めた、という段階でのご相談は早いほど選択肢が残ります。当事務所では、財務デューデリジェンスと、その結果を踏まえた取引条件の設計まで一体でお手伝いしています。

まとめ

決算書の売上は「引渡し」で決まります。期末の先食いは、その年の数字を良く見せる代わりに、会社を売る場面で価格・税務・金融機関の三方向から売り手自身に跳ね返ります。
売る予定がなくても、売上は引渡しで計上し、金融機関には資金計画で説明することをお勧めします。まずは初回相談からお気軽にご相談ください。

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執筆者
野田 洋平(のだ ようへい)
公認会計士・税理士/税理士法人袖野会計 沖縄オフィス 代表社員
慶應義塾大学商学部在学中に公認会計士試験合格。有限責任監査法人トーマツ、TOMAコンサルタンツグループ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社を経て現職。東証プライム上場企業の財務デューデリジェンス、中小企業のM&A・事業承継支援に従事。
沖縄税理士会所属(登録番号 第138425号)

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