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AIで仕訳を全件見る時代の財務デューデリジェンス|税理士法人袖野会計

会社を買う前の財務調査(財務デューデリジェンス)で、当事務所は5年分・数万件の仕訳データを全件検証しました。数件を抜き取って見る従来のやり方では見えなかった「型」が、全件を見ると浮かび上がります。生成AIが担ったのは網羅と反復の作業で、判断・説明・交渉は人が担いました。小さな事務所でも大手の調査と同じ網羅性を持てるようになった一方、AIにできないことも明確になりました。

本稿は、当事務所が関与した複数の案件の経験をもとに、特定の会社が分からないよう業種・数字・経緯を変えて書いています。

AIに任せたこと

網羅と反復

全件の集計、残高の検算、伝票番号や入力者のパターンの抽出、入出金との突合。

人が担ったこと

判断・説明・交渉

書証や現場の確認、経営者や顧問税理士への質問、数字の検算と結論への責任。

全件検証で何をしたか

その1

データの完全性の確認

受け取った仕訳データを集計し、各年の決算書の売上高と円単位で一致することを確かめました。ここが合わなければ、その後の分析は砂上の楼閣です。

その2

残高の連続性

前期末の残高に当期の仕訳の増減を足して当期末の残高と一致するかを、主要な科目すべてで検算しました。一致しない科目があれば、決算書の作成過程で「仕訳にない調整」が入っている証拠になります。

その3

伝票番号と入力者のパターン

決算整理にだけ使われる番号帯、入力者が空欄のまま期末日に立てられた大きな伝票、摘要が空欄の振替。こうした「人の手が入った跡」は、全件を並べると一目で分かります。

その4

売上計上と入金・原価のタイミング

売上を計上した日、代金が入った日、原価を仕掛から振り替えた日を工事ごとに並べると、引渡し前に売上を立てた工事は同じ型を示します。逆に、過去のある年について「先食いはなかった」と結論づけることもできました。

その5

私的な支出の抽出

相手先や摘要の言葉から、事業と関係の薄い支出を全件から拾い上げ、金額を確定しました。抜き取りでは「疑い」で終わる論点が、全件では「実数」になります。

その6

通帳との突合

数年分の全入出金を仕訳と照らし、入金があった日に借入を返すという資金繰りの実態を確認しました。

追加の年度分のデータが届いた当日に、同じ手順で検証を終えられたのは、手順が再現可能な形で残っていたからです。

AIにできなかったこと

引渡書や契約書といった書証、現場の確認、経営者や顧問税理士への質問とその答えは、AIでは代替できません。仕訳が示すのは「型」であり、型が意味することを確定するのは書証と人の説明です。

もう一つ、AIは「もっともらしい間違い」をします。
ある分析では、固定費を減らす方向の調整を、AIが逆向きに反映していました。数字の整合を人が検算していなければ、報告書にそのまま載っていたはずです。AIを使う調査ほど、人による検算と責任の所在がはっきりしている必要があります。

沖縄の中小企業にとっての意味

これまで、中小企業のM&Aでは財務デューデリジェンスを省くことが珍しくありませんでした。費用が価格に見合わない、というのが理由です。しかし、買ってから決算書と実態の違いが分かる事例は後を絶ちません。

全件検証を現実的な費用でできるようになったことで、数千万円規模の取引にも調査を持ち込めるようになりました。これは買い手だけの話ではありません。売り手の側も、「決算書は全件見られる」前提で数字をつくる時代になった、ということです。

AIによって会計事務所の作業が安くなるのは避けられません。それでも、何を見るべきかを決め、見つけたものを説明し、取引条件に落とし込み、その結果に責任を負う仕事は残ります。当事務所は、その部分に人の時間を集中させるために、作業の部分をAIに任せています。

まとめ

仕訳を全件見ることで、抜き取りでは「疑い」で終わっていた論点が「実数」になりました。一方で、何を見るべきかを決め、見つけたものを説明し、その結果に責任を負う仕事は人に残ります。
会社の買収や承継をお考えの方、自社の数字を第三者の目で見てほしい方は、まずは初回相談からお気軽にご相談ください。

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執筆者
野田 洋平(のだ ようへい)
公認会計士・税理士/税理士法人袖野会計 沖縄オフィス 代表社員
慶應義塾大学商学部在学中に公認会計士試験合格。有限責任監査法人トーマツ、TOMAコンサルタンツグループ、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社を経て現職。東証プライム上場企業の財務デューデリジェンス、中小企業のM&A・事業承継支援に従事。
沖縄税理士会所属(登録番号 第138425号)

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